『探し物』


「あった?」
「ないわ」
「見付からない」
「こっちも」
「こっちもないわ。何処へやったのかしら。あの耳飾り、あのドレスが一番あうのよね」
「片方だけあってもねえ。なに、どうかした?」
「いいえ、ちょっと冷静に考えてみようと思って。どう動いたか分れば、見付かるんじゃない」
「ああ、そうね。ええと、最初は間違いなくこのソファよね」
「でしょうね。髪飾りはここにあったから、ここで髪を解いたのよね」
「ディオさまの上衣もここ。ドレスは部屋の中央よね」
「靴の片方も近くに落ちてたわ」
「じゃあ、脱がせもって、寝室の方に移動してったことになるわよね。貴方、なにひとりで赤くなってんのよ」
「だって、ねえ……」
「ドレス脱がせた時に、引っ掛かって一緒に落ちたってことは?」
「有り得るわ。そこの敷物の下とかにない?」
「残念。ないわ」
「でも、ここから先は寝室まで何もないわね」
「もう片方の靴は、寝室の入り口付近だったわ。抱きかかえていかれたかしら」
「その時、身に着けていたものといったら……コルセットぐらいよね」
「あと靴下と靴下留め……いやん!」
「ちょっと、変な想像してんじゃないわよ」
「だってぇ、あの痕みたでしょ」
「……まあね」
「お陰できょうは衿の高いドレスしか選べなかったけれど。首元が綺麗だから、隠すのが勿体ないって思っちゃうのよね」
「でも、あの白のドレスも殿下から贈られたものでしょ」
「あ、そうなの?」
「確かそうよ」
「昨日の赤のドレスは、そうだって知っていたけれど。姫さまのドレスって殿下から下されたものが三割ぐらい?」
「そんな感じ。装飾品もそうね。陛下からが一割ぐらいかな? 大体は女王陛下が御用意下さったものだし。ま、その辺でお気持ちが分かるってものよね」
「そうね。でも、それにしちゃあ、思ったより時間かかったけれど。姫さまにわざわざ言う必要ない、とか言われたりするし」
「焦れたわよねえ」
「地道にそれとなく、毎日、行き先を報告してた甲斐があったってもんよね」
「わざとらしくしない様にするのに苦労したわよ。『図書室によく出入りされては、この国の事を調べておられますが、なにかお手伝いした方が宜しいでしょうか』、とか、『ベルシオン卿やガーネリアの方々と愉しく過されてた様ですよ』、とか言って」
「ちょっと、そこ、今はそんな話している場合じゃないでしょ。じゃあ、あるとしたら寝室?」
「可能性は高いと思うわ。片方と首飾りは寝室のサイドボードに置かれていたでしょ」
「耳元や胸元にキスしたりすると邪魔だから外しちゃったりとか。だから、耳飾りの片方は寝室にあった」
「でも、どこかで落ちて、蹴っちゃったとかは?」
「んー……あるかも」
「それじゃあ駄目じゃない。貴方の推理も当てにならないわね」
「ねえ、髪を下ろしたら、耳にキスするにも邪魔じゃない。その時とかは? こう、髪をかきあげちゃったりなんかした時に」
「ああ、有り得る! 髪がひっかかりやすい意匠だもの」
「だとすると、どこ?」
「わかんないわよ、そんなの」
「今更、ウブな振りしないの」
「やっぱり、ソファか寝台。抱えられていたなら、移動しながらは無理」
「うーん、ソファの下とかに落ちていない?」
「と、待ってよ。下にはやっぱり、ないわね……あ、あった! 背凭れとの隙間に挟まってた。クッションの陰になって見えなかったのよ」
「やったあ」
「良かった!」
「これで一件落着ね」
「めでたし、めでたし、よね?」






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