『その話フィクションにつき』


  某月八日

 今日、キャスがローディにつかまり、「不思議の国へ連れていけ」、とさんざん駄々をこねられた。
 不思議の国は、キャスが王子たちに聞かせたイカレタ連中ばかりが出てくる噺に出てきた国だ。どうやら、ランディがキャスのことを『うさぎ』と呼んでいるのをどこかで聞いて、キャスが不思議の国の白うさぎが化けたものと思ったようだった。
 ローディはまだちいさいから、本当のことと嘘の区別がまだあまりできないらしい、とキャスは言っていた。俺が五歳のときには、それなりにわかっていたと思うけれどな。スレイヴにそういったら、育ちが違うから、と言われた。
 ローディは不思議の国へ行って、赤の女王や兵隊をやっつけて、アリスを助けたいらしい。困っている女の子を助けるのが、王子の役目だとなんども言った。
 でも、あんまりしつこいんで、みかねて俺だけじゃなく上の王子やスレイヴがちがうと説明したけれど、ローディは「連れていけ」の一点張りで、ぜんぜんいうことを聞かなかった。
 結局、最後に死神が出てきて、無理矢理キャスをひっぺがして連れ帰っていった。
 それから、死神本人から死神に勝てるぐらいにならなければ、どこへ行こうと返り討ちにあうだけだ、と言われたのが効いたらしい。
 やる気になったローディにつきあって、午後から半日、剣術の稽古になったのはよかった。


 某月十五日

 不思議の国熱がさめたローディは、最近、ピーターパンが一番のお気に入りだ。
 ここのところ、毎日、フック船長役をやらされている。たまに、キャスがウェンディをやったり、スレイヴがチクタクワニをやらされるときもある。剣術の稽古みたいにもなっているので、いつもはうるさい他のお付きの者たちにも、何も言われないですんでいる。
 ローディは、本気でネバーランドに行く気になっている。いつかピーターパンが迎えに来てくれると信じていて、夜、寝る時もカーテンを閉めさせないらしい。寒いのにな。
 ネバーランドに行って、フック船長をやっつけて、チクタクワニを生け捕るつもりらしい。でも、今日、空を飛ぶ真似をして椅子から飛び降りたはずみでこけて、顔を打ったせいで大泣きしたことがあった。すぐに医者を呼んで手当てをうけさせたけれど、大したことはなかったようだ。頬に痣ができて、額にでっかいたんこぶが出来たぐらいで、二、三日で治るそうだ。
 でも、よっぽど痛かったのか、ローディは手当ての間もずっと愚図っていた。結構、泣き虫なところがある。
「そんなんじゃ、フック船長に、あっという間にやられる」、と言ったら、泣きやんだ。
 その後、女王陛下に説明するために呼びだしをくった。女王陛下はいつもみたいに笑って許してくれたが、こんど転んでも痛くない転び方を教えてやってくれ、と言われたので、受け身を教えてやることにする。
 なのに、接見の後でラルから説教と、拳骨をいっぱつもらった。相変わらず、痛かった。


 某月三十日

 ローディがめずらしく神殿に行くというのでついていったら、聖騎士に用だった。テンジクへはどうやったら行けるのか知りたかったようだ。
 ソンゴクウに会って、カメハメ波のやり方とニョイボーの扱い方を教わりたいそうだ。あと、キントウンにも乗せてもらいたいらしい。最近やたらと、ローディにカメハメ波を連発されるのは困る。その度に死んだふりをするのも大変だ。こっちは、なにもできないしな。
 ローディに質問されて、聖騎士も困っていた。当り前に、なんのことかわからなかったみたいだ。そうしたら、そこへクラウス殿下がやってきて、テンジクへの行き方はだれも知らないが、ソンゴクウが閉じこめられていた山がどこか捜してみるといい、と言った。ついでに、カメセンニンが暮らしている南の島も捜せば、カメハメ波のやり方を教わることができるかもしれない、と言われて、ローディは納得したみたいだった。神殿の帰りに図書室へ行って、でっかい地図を借りて、いま夢中になって捜している。
 おかげで大陸の地理には詳しくなったみたいだ。なんだかんだ言って、うまくのせられた気がする。
 ニョイボーについては、スレイヴにニョイボーは扱いが難しいから、まずは槍をうまく扱えるようになってからの方がいい、と言われて、明日からローディは槍の練習を始めることになった。
 カメハメ波よりそっちの方がいいと俺も思った。



「カスミ、ローディリアにしている話だが、冒険ものを好むのは仕方ないにしても、もう少し穏やかな内容のものの方がよいと思う」
「やっぱり? 私も薄々その方がいいかな、って思いはじめていたところなの」



 某月三日

 今日、ローディが城の穀物庫で飼っている猫を追い掛け回して、一時、大騒ぎになった。
 それというのも……






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