『井戸端会議 1』


「可愛いわよね」
「そうね、まあまあかな」
「あら、可愛いわよ。少なくとも、化粧映えはするわね。磨けば光るって感じ?」
「腰の細さはコランティーヌ様以上よ。お肌つるつるだし。きめが細かくて。羨ましいくらい」
「胸がもう少し欲しいところよね。あと、お尻ももうちょっとあった方が良いわね」
「うん、でも、そのくらいならばドレス着た時に補正のしようがあるわ」
「でも、問題は髪の毛よね。でも、あれ、髪の毛だけよね。湯浴みの時とか見たけれど、眉の色も」
「そうね」
「そうよね」
「ひょっとして?」
「アレでしょう。でなければ、ディオ殿下が庇護なさる理由がないもの」
「でも、お仕事のお手伝いって言っているわよ」
「だから、それは口実でしょう」
「やっぱりそうかしら」
「きっと、そうだわ。でなけりゃ、箝口令なんか布かれないもの」
「あ、でも、この間の感じだと陛下の方がお気に召しておられるって感じみたいだったけれど」
「そんなこと言ったら、クラウス殿下の方が仲良さげだったわよ。普段からお茶をご一緒されているそうだし」
「クラウス殿下は、二度とご結婚なされない身でらっしゃるじゃない」
「分からないわよ。司祭になられた時だって、半分、捩じ込んだような形だったし。辞めるのも簡単じゃないの?」
「でも、肝心のディオさまとはアレだったし」
「そうねぇ」
「そうよねえ」
「けれど、それにしたって、問題はコランティーヌ様の事でしょ。それさえ片付けば、問題ないんじゃないの? 二人でお話している時は良い感じだったし」
「そうね。私、あんな風に気楽な雰囲気でいらっしゃるディオさま、初めて見たわ」
「でしょ、でしょ。あれは意外よね」
「内心、満更じゃなかったりして?」
「それ有り得るわ。コランティーヌ様が騎士に人気もあるし、フィディリアス公爵様との絡みもあって、つれなくも出来ないでしょう。だから、表立つのを避けてらっしゃるんじゃないかしら」
「というより前に、コランティーヌ様も陛下の側室におなりなんだから、いい加減にディオさまに付き纏うのやめて頂きたいわ」
「あら、あなた反対なの?」
「正直に言えば、お付きのメイドの娘達が気にくわないって感じ? なんかお高くとまってて」
「あー、分かるわ。確かにコランティーヌ様はお美しくいらっしゃるけれど、別にあの娘達が奇麗なわけでも上品なわけでもないのにね」
「ご自慢の姫さまだからでしょ。でも、もし、陛下がディオさまに妃様を下された場合は、あの娘達がこの辺を大きな顔して歩く事になるのよね」
「そうそう、それ! なんか嫌じゃない? こう言ってはなんだけれど、護衛の親衛隊の方々もイマイチだし、妃様しか目に入ってないって感じで、感じわるい!」
「そうね。そうなったら、きっと、ベルシオン卿もやりにくいでしょうね」
「そう言えば、ベルシオン卿とも仲が良さそうよね。『ウサギちゃん』とか呼ばれて。ま、分かるけれど」
「いやん、そうなの?」
「あら、あなた、ひょっとして、ベルシオン卿の事、狙ってる?」
「そんな狙うなんて……お姿さえ拝見していられれば良いのよ」
「ま! 控えめな事! でも、いくらベルシオン卿が気に入られているとしても、無理よね」
「そうよねえ。ガルバイシア卿が後見人なさっておられるようだし、有り得るとしたら、王族のどなたかなんでしょう。陛下の側室にあがるか、クラウス殿下か、ディオさまの正妃か」
「そう考えると、やっぱり、ディオさまかしら。まだ、未婚でらっしゃるし」
「そうね。いい加減、落ち着いても頂きたいわよね。私達としても、女主人は欲しいところだし、お子様もね」
「コランティーヌ様よりは良いと思うわ。気さくな性格でらっしゃるし、公私共にディオさまの支えになって頂けそうだもの」
「それに同感。一票、投じさせて貰うわ」
「コランティーヌ様のメイド達に大きな顔をさせない為にも、賛成」
「ゲルダ夫人にあれだけ言える方も珍しいから、一票」
「言えるわね。一票」
「じゃあ、全員、賛成って事でいいわね。これまで通り、お二人の仲が上手くゆくよう、お力添えをする方向で」
「異議なし!」

 メイドの娘たちがそんな会話をしていた事は、私は知らない。
 ……やっぱり、こえぇよ、メイドさん達。てか、根本的に間違ってるぞ!






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