『井戸端会議 2』


「ああ、お腹空いた。何かない」
「そこにキャンディがあるわよ」
「えー、キャンディだけ? いつももっと何かあるじゃない」
「ないわよ。当分、無理」
「なんで」
「だって、あの娘がいないもの」
「あの娘って、魔女さん? え、どっかへお出掛け?」
「そ。だから、あの娘が帰ってくるまで、私達もお預け」
「えーっ、そんなあ!」
「しょうがないじゃない。あの娘がいたから、クラウス殿下も毎日、お茶菓子を沢山、作らせていたようなもんだし」
「そうよねえ。お陰で私達のお腹も満たされていたのだけれど。残り物とは言え、お城の料理人の作ったお菓子が食べられる日が来るなんて……ああ、レーズンタルト美味しかったなあ」
「あの娘が来るまでは、ただ見てるだけだったものね」
「実は、内心、いつも、残さないかって思ってたりなんかして」
「大抵、余るでしょ」
「狙っているやつが、って事。アーモンドガレットとか」
「パウンドケーキとか」
「フィナンシエとか」
「ああ、涎出てきた。シュー・ア・ラ・クレームとか」
「レアチーズケーキも美味しかったわねえ」
「チョコレートムースも」
「スフレ」
「スフレは無理でしょう。しぼんじゃうわ。だから、あの娘もそういうのはちゃんと食べてたじゃない」
「一度、食べてみたいって意味よ」
「ああ、そうよねぇ。それでなくても、折角、これから苺が出てくる季節だっていうのに」
「苺と生クリームたっぷりのロールケーキなんて、きっと美味しいだろうなあ」
「どうせワンロール作らせるから、きっと残るわよね」
「これからレモンやオレンジも出回ってくるもの。果物を使ったお菓子が出るでしょうにねえ」
「ねえ、いつ戻ってくるのよう」
「さあ……戦が終ったら?」
「え、嘘。戦に出るの? あんなか細そうな娘が!? 死んじゃうわよ!」
「なに、じゃあ、あの娘が間違って死んじゃったりなんかしたら、私達は二度とお菓子を口にする事も出来ないわけ!?」
「そんなの悲しすぎる!」
「ちょっと落ち着きなさいよ。ディオ殿下だって、あの娘をそんな危険な所にいかせないでしょ。間違っても瞳の色がバレたら大変な騒ぎになるもの。私達もそれで箝口令が出されたんだから」
「ああ、そうよね。ちょっと、動揺しちゃった」
「でも、お妃候補とかじゃないの? 巫女ってわけじゃないにしても」
「それはないでしょう。コランティーヌ様がおられるのに」
「そっか。ああ、でも、そうすると、戦が終ったらラシエマンシィからいなくなっちゃうなんて事ないわよね。何処か遠くに幽閉とかされて」
「いやだ。そうしたら、やっぱりお菓子が」
「そうなったら、今度はクラウス殿下が引取られないかしら。なんかそんな話もあったじゃない」
「ああ、あったわよねえ。かなり、お気に召されているみたいだし」
「お茶の時間は、いつも愉しそうにしていらっしゃったもの。そのせいか、今は少し寂しそうに感じるわ」
「早く戦が終って、無事に帰ってきて欲しいわね」
「お菓子の為に?」
「殿下の為にもよ」
「そうね」
「そうよねえ」
「ほんと、早く帰って来ないかなあ……お腹空いた」

 アストラーダ殿下のメイドさん達の間でそんな話があった事も、私は知らない。
 なんか……切ない。






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