作者覚書としての世界観(改訂の可能性あり)


 国・風土 


 国名、青藍《せいらん》。首都、北谿《ほっけい》。
 大陸東端に位置する元は湿地帯。南北に長く、三方を山脈、西方の金瓜《きんか》山脈、北方の雲宕《うんとう》山脈、南方の御座井《みくらい》山脈と東方を海に囲まれた、天然の要塞に守られる盆地。起伏に富み手付かずの湿地も未だ多く、国全体を見ても平地は五割に満たない。大雑把に東西南北と中央部の五つの地方に分割されるが、北谿の都は北部に位置する。
 国南部には国最大規模の湖、臥龍湖《がりゅうこ》が存在し、山に多々ある洞窟は龍が通った跡と伝えられる。
 気候は一年を通して四季がはっきりとしているが、湿度が高い。季節ごとの降雨、降雪量も多く水害も発生しやすい。自然に恵まれ、多くの動植物が生息する。
 国東西を繋ぐ大瀬川、南北を貫くように走る御衣木川《みそぎがわ》の二大河川を中心に、国全体を無尽に走る川を利用した船での交通機関が発達している。牛や馬などの家畜もいるが、交通手段よりも農村での労働などに使役される事の方が多い。

 北谿 


 青藍の国の政治と商業の中心地。国の北東部に位置し、およそ八十万人強の人口と、この世界に於ては大都市の部類に入る。西に十里(約40km)ほどいったところに、大瀬川と御衣木川の二大河川の合流地点がある為、交通の要衝として発展した。元は湿地帯を干拓して水の流れを中心に街が作られているために非常に入り組んだ街並みとなっており、地上でも細かい路地が多く存在し、迷いやすい。しかし、敵襲を受けた時にはそれが有利となりもする。亞所を中心とした渦巻き状の掘を中心に、都全体を細かい水路が走り交通網の役目も果たしている。尚、堀は大船が通れる広さがあり、数箇所の水門を設けることで水の量の調整を行っている。
 都に流れる水の殆どは、雲宕山脈からの雪解け水、湧水が主で、生活用水として普段から使われてもいるが、飲料用としては井戸水を使う。
 水路は、都中心部は石組みのしっかりした構造になっているが、中心部から離れるに従って、土手のままであったり葦原が広がっていたりする。大雨の時などは水害対策のために地区ごとに土嚢を積んだりと、対策が行われる。
 交通は、街の構造から舟が中心。桟橋を定期的に回る伝馬舟(バス)や任意の場所へ運ぶ雇い舟(タクシー)などもあるが、富裕層は専用舟(自家用車)を持つ。また、遊興用の屋形船なども珍しくはない。漁師は苫舟《とまぶね》が主流。
 外れには船宿、船茶屋が存在し、建物の構造が、一階は船着き場で二階が食事や遊興の場となっていたりする。
 遊興の場としては、他に街の西と東にひとつずつ公認の遊廓が存在する。所帯をもつことの難しい男性、護戈衆などは馴染み客であることが多いようだ。因みに遊廓を管理するのは、評定省寺社部となっている。

 西北地 


 国の西北地は主に五つの地に分けられ、陽山《ようざん》を中心に、金瓜山脈と雲宕山脈の連なりに沿って、北嶺《ほくれい》と南嶺《なんれい》、楽水《がくすい》、夕賀宿《せきかのしゅく》を含む雨雀之森領《うじゃくのもりりょう》、比較的、都に近い幹竹宿《からたけしゅく》を中心とした芦水《あしのみず》とされる。任地とする七丿隊もこの五つの地に分舎を持つ。
 湿地帯が主な国にあって森林地帯が多く占め、山脈に近付くに従って未開の地も多い。当然のことながら、自然災害の発生も止むを得ず、出るあやかしも大型のものが混じり、危険も大きい。しかし、それとは別に木工産業としての恩恵も受ける
 季節毎に樹の伐り出しや植林作業も行われるため、仕事を求めて季節働きの流民も多く集まる。中にはならず者も混じり、治安はあまり良いとは言えない。街ごとにそれらの者を取り纏める顔役も存在し、縄張り争いなどもあるようだ。
 地方によっては、移民の隠れ里とも言える集落も点在し、国の民とは一歩おいた交流をしつつも独自の民族文化を伝え守る者も存在する。

  民族・風俗  


  他国よりの流入者が多く、様々な民族が混在する。
  国民の多くは戸籍によって管理されているが、さまざまな理由により戸籍を持たない者も存在する。公の身分制度で分けられるものではないが、個人感情としての差別は存在する。
通常の手続きを行って移住してきた移民とは違い、戸籍を持たない者は一般的に流民《るみん》と呼ばれる。また、その多くが河原に住むところから河原者《かわらもの》とも呼称される。税収の問題から、評定省も把握に務めているが総数は不明である。
 流民の中でも、不治の病に罹るなどした犬神人《いぬじにん》と呼ばれる者たちは忌避され、まともな職にもありつけない事から、信仰により付き従う僧侶の手配から人の厭う仕事、遺体処理や埋葬などの仕事などを行って日々の糧を得ている。
 豊富な水量から漁業や農業を中心に発達。また、西では木材の採取、南では鉱石の採掘が産業として盛んに行われている。木工品や鉱石の加工にも優れ、他にも手工業を生業とする者も多い。特に女性用の装飾品や道具などの優れた物は、国内外で高値で取引される。国としては決して豊かではないが、元々、独立心の強い気風がある民族性で、個人の采配に任される自由が富にも勝るとされる価値観を持つ。地区ごとの自治や互助的なシステムが多く存在する。
 風俗としては、鎌倉期から江戸期にかけての庶民の文化が混在しているが、その時々での流行などもある。また、流民によって持ち込まれる文化も多くある。

  政治  


 北谿の都、亞所《あしょ》を中心に、評定省《ひょうじょうしょう》によって管理、運営される。
 評定省は大きく十二の部所に分かれ、それぞれ数名の官吏《かんり》と一般の役人によって各分野を担当されている。
 また、地方にも分舎を持ち、地方毎の特色に合わせた政治を行っている。
 国政の方針は、八老師《はちろうし》と呼ばれる国内から集められた八名の代表によって話し合いが行われ、決定される。
 八老師から欠員が出ると、地位や立場を問わず、評定省の定めた一定基準を満たした者達の中から、龍神の社本宮にての託宣により選出される。
 亞所は都中央に位置する八角形の形状をした国有数の巨大建造物で、三階建ての入子の様な内部構造になっている(基本モデルはペンタゴン)。地位によって入れる層が異なる。
 

  宗教  


 多民族国家である為、個人の宗教の自由は認められているものの、嘗て国を支配していたという龍神信仰が根づいている。
 人々の信仰も厚く、また、八老師選出にも関る為、政治的にも格上として扱われる。
 龍神の正式な祭神名は、天地大龍王神《てんちだいりゅうおうしん》。水を司り、万物の理を示す象徴とされる。
 国南部の第二の都、南谿《なんけい》に龍神の眠るとされる臥龍湖全体を祀る本宮、臥龍神宮《がりょうじんぐう》があり、分社が国中に散らばる。その中でも北谿の都、亞所にほど近い場所に位置する分社、龍神大社は、敷地面積の広さと拝殿の見事さで本宮に次ぐものである。
 臥龍神宮は拝殿と奥院に分かれ、一般的には主に拝殿に参詣することになる。民衆の信仰が厚く、宮の前には常に数多くの店が建ち並び、多くの参拝客で賑わう。年間を通じて神事が行われるが、特に秋の豊饒祭には国中から参詣客が訪れ、一際、賑やかさを増す。
 奥院は朱塗りと漆の黒に彩られた壮麗な建物と言われるが、普段、臥龍大門《がりょうおおもん》に固く閉ざされ、一般的に神官達の生活を伺い知る事は出来ない。唯一、新しく八老師が就任した時にのみ潜ることが出来るとされる。
 龍もあやかしの一部と定義づける考え方もあるが、その力は神意であり、あやかしとは対極に位置づけられる存在とされる。また、公的には龍神の目撃談は報告されておらず、その存在は伝説のものとされる。
 また、護戈《ごか》の所持する武器、隊服も、臥龍神宮にて浄めの儀式を受けて後、隊士達に渡されるものである。
 しかし、流民によって新しい宗教が持ち込まれる事も多く、ここ五十年ほどで仏教もかなり庶民の間に浸透しつつある。
 僧侶の姿も珍しいものではなくなり、僧によっては功徳を施し、あやかしに対抗し得る能力のある者もいる事に起因するようだ。また流民の一集落の取り纏め役などを僧侶が引き受ける事が多く、特に犬神人の仕事の手配なども僧侶を通じて行われる事が多い。
 その他、流民を通じて流入する中には、宗教色の薄いまじないや占いなど怪しげなものも多い。
 

  あやかし  


 いつからか国中に姿を現すようになった人ならぬモノを総じての呼称。また、物の怪《もののけ》とも言い習わされる。
 形態はさまざまで、実体を持たないモノ、生物が年月を経て変質したモノ、本来うごく筈のない物品が生を得たモノと様々で、大きさも亞所を超える大きさのモノもいれば、小指の先ほどの大きさのモノまでいる。その全てが、魂の変質によるものと定義づけられている。
 人に害を及ぼす、及ぼす危険性があると判断された段階で護戈による討伐が行われるが、彼等の持つ武器によってのみ退治せしめられるもので、通常の一般の者が道具で立ち向かったとしても、根本的な解決には至らない。ただ、龍神の社の発行するあやかし避けの札等により、或程度の被害を免れる事ができる。
 それは祟る存在であり、一般には得体の知れない存在として迷信紛いの間違った認識も多く流布している。他国よりの侵略の脅威がない今、民にとって最も危険視される存在となっている。

  治安  


 基本的には平和だが、人の世の常でそれなりに悪事を働く者もいる。人同士の揉め事、取り締まりは柝縄《たくじょう》の管轄となる。所属する者を柝縄衆《たくじょうし》。護戈と共に評定所守戈部《しゅかぶ》によって管理運営がなされている。柝縄衆は山吹色の法被に表される。
 取り締まるとは別に証拠、証人集めが行われるが、それを行うのは同じく守戈部に属する舵槻衆《たつきし》の役目となる。舵槻衆は亞所や分舎外に出る事は滅多になく、日雇いの引手《ひきて》を使って情報を集め、検死などを行い事件の分析、下手人を特定する役割を持つ。下手人を特定した段階で、実行部隊として柝繩衆が取り締まりを行うシステムになっている。
 役所としてのこれらの機構とは別に、市井でも地区ごとに寄合《よりあい》と呼ばれる互助組織があり、その一環として自治活動も行われていたりする。
 余談として、盗難、強盗に限っては、護戈による昼夜の巡回が行われる為に、他の悪事に比べて非常に発生率が低くなっている。

  護戈・護戈衆  


 あやかしが姿を現すと同時に、人の中にも神意を得て通常の人以上の能力を持った者たちが現れるようになった。その力は五行(火・水・風・土・金 ※金=刀剣類)に通じるもので、それらを自在に操り、龍神の浄めを受けた武器にてあやかしを退治せしめる事ができる。しかし、その数は決して多くはない。その彼等を集めて組織されたのが、護戈である。
 護戈衆となるには、男子は成人(十四歳から十五歳)となった時点で年一回の評定省による検定を受けることを義務づけられ、選出される。女性は義務とされないが、個人の任意によっては検定を受ける事ができる。
 検定によって素養ありと認められた者は、以降、親元から離れて二年間の訓練期間を経て後、八隊の内のいずれかに配属される事となる。訓練以前、訓練期間中には就任拒否権が認められるが、配属先決定後は拒否する事は出来ない。配属後は、各隊の寮にて共同生活が行われる。途中、婚姻などにより家族を持つ事も許されるが、現役中は家族とは別居状態が続く事になる為、子を成しても認知するに留め、公には生涯、独身を貫く者も多い。
 護戈は、柝縄と共に評定省守戈部によって管理運営がなされ、護戈全体の総責任者である現総帥は、賦豈。
 一丿隊から八丿隊までの八つの部隊は、北谿に四隊、その他の地域の四隊に分かれ、あやかしよりの治安維持に務める。その守備地域により一隊の構成人数は三十人弱から百人強と様々で、各隊、経験豊かな一名の隊長によって実質的な指揮が任される。
 普段の勤めは詰所にて待機と巡回を繰り返し、あやかしが出たと通報あれば、駆け付けて討伐を行う。都においては、一丿隊と二丿隊、三丿隊と四丿隊の二組に分かれ、隊ごとに昼夜交代制で警戒にあたる。昼夜の勤めは三ヶ月ごとに交代となる。
 都の四隊については昼夜交代がある三月に一度、他の地域の隊については半年に一度、隊長格のみが亞所に集まっての会合が行われる。都外の隊については、通常は賦豈との間で書簡の遣取りのみでの報告となる。
 各隊ごとに紋が定められ、隊長格は紋入りの白羽織を着用。また、袖に入った藍の線により、隊を識別する事もできる。隊士達は、藍の羽織りに紋入りの木札を携帯することでどの隊に所属するものか分かるようになっている。これらの隊服も浄めを受けて、通常以上にあやかしから身を守ることが出来るとされている。
 護戈衆の一般通称としては、『守護さま』。しかし、蔑称として『修羅さま』と呼ばれる事もある。
 尚、所持する武器は、通常、大小の刀(日本刀)であるが、その他の武器を取る事もある。それらは全て、評定省を通じて隊士達に渡されるものであり、新規で誂えるにも評定省への申請が必要となる。武器は穢れを嫌い、人の血を浴びた時点であやかしを退治する効力を失う。また、護戈衆以外の女性が、直接、手で触れることはタブーとされている。尚、一般として効力のあるなしに関わらず、刀については護戈衆以外が携帯する事は許されていない。
 護戈衆には、二人の隊長を含め女性隊士も存在するが、全体の二割強でしかない。
 また、能力的に体力的なものよりも治癒能力に優れる者も中には存在するが、その者達は隊士の治療などに専念する事となる。
 護戈衆は選ばれた存在であり、その役割から常に身を危険に曝される為、世間より優遇される部分も多い。体力的な衰えがみられる五十歳を過ぎた時点で現役を引退し隠居する者もいるが、生涯を通じてなんらかの形で関る者も少なくない。

  刀剣類・言霊  


 護戈の持つ刀には御霊が宿っており、それによりあやかしが斬れるとされる。穢れを受けた刀はその御霊を失い、ただの刃と変わる。御霊を有する物である事からも、自在に使いこなす為には、身・技・体が必要となる。
 刀はその刃を直接あやかしに当てて斬る他、同時に言霊を使用することによって、触媒としての使用方法がある。触媒として使用する場合は、あやかしより離れた位置からの攻撃も可能となる。他、御霊が入った武器についても同様であり、或いは、護戈衆の身体自体を触媒とする事も可能。
 技としての言霊は護戈が操る五行(金に関しては得物そのものであるので、実際は四行)の力を具現化するもので、発動させるには心・口・意(意思)が揃わなければならない。つまり、刀を使うと同時に言霊を使用する方法は難易度が高く、加減など己の意思にそぐわない結果になる事もままある上、武器そのものにダメージを負わせてしまう場合がある。ほか、使う者の五行に対する得意、不得意の影響、精神状態、また刀の状態にも左右される。故に慣れない新米隊士などが使用する場合は、周囲の被害も考慮する必要がある。その技の熟練度は、経験によるところが大きいと言える。
 その技は五行に共通する型が幾つか決まっているが、五行の内の数種類を同時に発動させるなどバリエーションは多く存在することになる。その為、使う者独自の型もあるようだ。
 当然の事ながら、普段に於て、祝詞など言霊だけの使用も可能である。

  その他  


 金銭 …… 一般的に流通する通貨単位は『井《せい》』。蕎麦一杯が、八井程度。百井で『湧《わく》』、千井で『漉《ろく》』となり銭の形状も異なる(一漉は、小判)。三漉あれば、働かずとも一家四人が半年は楽に暮せる。

 暦  …… 所謂、陰暦。一月『初月《はつづき》』・二月『雪消月《ゆききえづき》』・三月『早花咲月《さはなさづき》』・四月『鳥来月《とりくづき》』・五月『早稲月《わせづき》』・六月『水涸月《みずかれづき》』・七月『穂見月《ほみづき》』・八月『諸越月《もろこしづき》』・九月『木染月《こそめづき》』・十月『時雨月《しぐれづき》』・十一月『霜降月《しもふりづき》』・十二月『年満月《としみつづき》』

 時  …… 江戸時代の時刻に倣う。




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